『ある冬の物語』
街のあちこちが、クリスマス一色に染まっている。
すなわち、赤と緑に。
ショーウィンドウには、どこに行っても同じような文字ばかりが目に飛び込んでくる。
『メリークリスマス!』
そしてまたどこへ行っても、文字の隣には、赤い服に身をつつんだ老人の人形が立っている。
そんな街の中を見て歩くのが、私のお気に入りだった。
今日もまた、どこへ行くともなく、ショーウィンドウを眺めて回る。
店の中からは、クリスマスソングが聞こえてくる。
ときどき手をつないだ親子が店を覗きながら、私の隣を通り過ぎて行く。
「ボク、サンタさんにこれもらうんだ」
そんな、うれしそうな声も聞こえる。
にぎやかな中にもどことなく静けさを隠す街。
「あなたもプレゼントさがしてるの?」
突然、後ろから声がした。
振り返ると、少女が一人立っていた。
茶色がかった長い髪を、後ろで二つに結っている。
優しそうな少女は、たぶん私と同じくらいの年頃だと思う。
「いえ、私はただ見てるだけです」
「ふーん。じゃあ、よかったら一緒に見て回らない?」
「…ええ」
「よかった。じゃあ、そうね…どこがいいかな」
私達は、すぐそこの店に入った。
テラスのような木の床で、並べられた棚にはアクセサリーなどがたくさん並んでいる。
「私、プレゼントさがしてるんだけどね」
彼女は、目の前にあったネックレスを手に取った。
「これ、どうかな?」
「かわいい…」
「じゃあ、だめね。彼、そういう人じゃないから」
どうやらボーイフレンドへのプレゼントを探しているようだ。
数分間悩んだ末、最初に手に取ったネックレスの、隣に置かれたものに決めた。
「あなたは何も買わないの?」
「私は、お金少ししか持ってきていないから…」
「それじゃあ、そうだね、これがいい! 私が買ってあげる」
「でも、悪いわ」
「いいの、いいの」
そう言って、彼女はさっさと会計に出してしまった。
「はい、どうぞ」
店を出ると、リボンのついた小袋をひとつ取り出して、彼女が言った。
「あの、お金は…」
「ほらほら、気にしないの。大事にしてね」
しかたなく彼女から袋を受け取った。
せっかく彼女が買ってくれたのだから、しかたなく、でも、嬉しかった。
「…ありがとう…」
「どういたしまして」
彼女は優しく微笑んだ。
ちょうどその時、私の頬に、何か冷たいものがあたった。
「どうしたの?」
「今、なにか冷たいものが…」
二人で空を見上げた。
白い、小さな、粉のような粒が降っていた。
「雪ね…」
「冷たい。私、雪って始めて見たわ。あなたは?」
彼女が、手を出して雪を受け止めた。
雪はあっという間に、その白い手の上で溶けてなくなった。
「私もはじめて」
「…きれいね」
「うん、とっても」
空を見上げる彼女は、とてもうれしそうだった。
「今日はありがとう。とっても楽しかった」
日が沈む頃、二人が出会った店の前に、二人で向かい合った。
「私も楽しかったわ。ありがとう」
「うん。それじゃあね。会えてよかったわ」
彼女は微笑むと、それだけ言って走っていった。
私は、彼女の後ろ姿に向かって手を振った。
「そういえば、名前聞くの忘れちゃった」
それはただ、ほんの小さな、ある冬の物語。